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東京高等裁判所 昭和57年(ネ)450号 判決 1982年10月28日

控訴人 花輪眞平

被控訴人 白倉正三

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は「原判決中控訴人敗訴部分を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」の判決を求め、被控訴代理人は主文第一項同旨の判決を求めた。

当事者双方の主張は、次に付加するほかは、原判決事実摘示中「第二 主張」のとおりであるから、これを引用する。

一  被控訴人

1  控訴人は、原判決添付物件目録記載の土地(以下本件土地という。)の所有者である樋口三義との後記賃貸借契約に基づく賃借権(以下本件賃借権という。)を、抵当権者である被控訴人に対して、ひいては競落人に対しても、主張するものであり、右主張自体、抵当権の競売にあたり競売物件の価額の低下を招くから、抵当権侵害の一態様として抵当権者においてその排除を求めるため、賃借権の不存在確認を求める利益があるというべきである。

2  本件土地所在地の竜王町農業委員会は、控訴人に競売適格証明書を発行した(原判決事実摘示中「五 再抗弁 4(一)」の主張を右の限度で訂正する。)が、右農業委員会は、本件土地が農地であることを理由にその賃借権者以外には競売適格がないとの解釈をとり、賃借権者を控訴人であるとし、これ以外の者には競売適格証明書を発行しないとの方針をとり、荻野泰が右農業委員会に競売適格証明書の交付を申請しても、これには発行しないでいる。右措置は、右農業委員会の誤つた法解釈にもよるが、控訴人が、本件賃借権の存在を主張していることにもよるのであり、これにより抵当権の実行が妨害されているのである。

二  控訴人

1  本件賃借権は、控訴人が樋口三義に対して有するものであり、本件競売手続における差押登記のなされた昭和五二年九月五日の後である昭和五四年一二月二四日期間が満了し、その後は対抗力を失うものとすれば、その不存在の確認を求める利益はない。    2 また、竜王町農業委員会は、競買申出人に対して競売適格証明書を発行し、本件競売手続は進行しうる状態にあるから、抵当権の実行は妨害されていない。

三  証拠関係<省略>

理由

一  訴の利益について

抵当権の目的物件について一旦抵当権者に対抗することのできた賃借権の存在を主張する者がある場合、それがその後に対抗しえないものとなつていても、その外観が存在することにより目的物件の評価に影響を与える場合がありうるのであるから、このような場合、抵当権者は、賃借権の不存在確認を求める法律上の利益があるというべきである。そして、弁論の全趣旨によれば、本件は右のような場合にあたると認められる。農業委員会が競買申出人に対し、競売適格証明書を発行したからといつて、それにより右法律上の利益が失われるものでなはいことはいうまでもない。

二  成立に争いのない甲第一ないし第五号証、第七、第八号証によると、被控訴人と樋口三義は、昭和五〇年三月三一日樋口三義所有の本件土地について、被控訴人と釜無川生コンクリート株式会社との間の金銭消費貸借取引等に基づく被控訴人の債権を担保するため、原判決添付別紙第一登記目録記載の登記内容の根抵当権(以下本件根抵当権という。)の設定契約を締結したこと、被控訴人が昭和五一年四月一日右訴外会社に一〇五九万円を、返済期同月三〇日、利息年一割五分、遅延損害金年三割の各割合との約定で貸与したことが認められ、昭和五〇年四月一日右根抵当権設定契約に基づき右登記がなされたこと、控訴人が樋口三義との間に、昭和五一年一二月九日本件土地について、農地法三条の許可を条件として、控訴人を賃借人、樋口三義を賃貸人とし、存続期間三年とする賃貸借契約を締結し、同月一三日原判決添付別紙第二登記目録一記載の停止条件付賃借権仮登記をし、同月二四日右許可を得たので、同日設定として昭和五二年一月二一日同目録二記載の賃借権登記をしたこと、被控訴人が昭和五二年六月二八日本件根抵当権に基づき、本件土地につき、前記貸金債権を請求債権として、甲府地方裁判所に競売(以下本件競売という。)の申立をし(同庁昭和五二年(ケ)第八〇号事件)、同裁判所は、その開始決定をして債務者である前記訴外会社に送達し、同年九月五日本件土地にその旨登記がされたこと、控訴人が本件賃借権の存在を主張していること、以上の事実は何れも当事者間に争いがない。

三  本件賃借権は、昭和五〇年四月一日本件根抵当権設定登記がなされた後である昭和五一年一二月二四日設定として昭和五二年一月二一日登記されたもので、短期賃借権として民法三九五条により抵当権者に対抗しうるものであるが、その期間は三年であつて、本件根抵当権の実行により本件競売開始決定が債務者である前記訴外会社に送達され、昭和五二年九月五日その旨登記がされ差押の効力が生じた後である昭和五四年一二月二四日に満了したものであるから、このような場合、賃借人である控訴人は、農地法一九条による法定更新をもつて抵当権者である被控訴人に対抗できないものと解すべきである(最高裁判所昭和三八年八月二七日第三小法廷判決・民集一七巻六号八七一頁参照)。

したがつて、本件根抵当権に基づき、本件賃借権の不存在の確認を求める請求は理由がある。

四  よつて、被控訴人の本訴請求を認容した原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判官 倉田卓次 下郡山信夫 加茂紀久男)

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